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第1回建築レビュー



代替わりをした2015年度山中研究室は、G4が12人、M1が5人、M2が2人という総勢19名の新体制で活動を開始した。前年度に引き続きG4の数が多く、今年も活気溢れる研究室となるだろう。プロジェクトは自体はまだ開始してはいないが、既に活動を予定しているプロジェクトも多々有り、若手の精力的な力を活かして実りのある一年になることを願う。


― 建築レビュー#1「マリオ・ボッタ」/ 発表者:杉山(M1) ―

 今年度最初の建築レビューは、M1杉山によるスイスの建築家マリオ・ボッタについての発表だ。以前からボッタの魅力についてときどき語っていた杉山だが、ついに建築レビューという形式にて満を持して発表することとなった。マリオ・ボッタは1943年スイス生まれの建築家で、師にはル・コルビュジェ、カルロ・スカルパ、ルイス・カーンといった建築界の大御所と呼ばれる面々が名を連ねる。彼らに学んだ幾何学的なプランニングから、ビルディングタイプを問わず多くの建築を設計してきた。今回のレビューでは住宅作品だけでなく、美術館や複合施設といった様々なビルディングタイプから話を展開し、また建築的特徴として素材性や幾何性から見た作家性というものを分析し発表するというものであった。従来のレビューの形式とは異なり、広い視点で捉えた発表には新鮮な印象を受けた。


○建築的特徴(素材性、幾何性)

 前述したように、今回のレビューではボッタの建築的特徴から見た作家性の分析が行われた発表であった。

ボッタは主材料として、コンクリートブロックや煉瓦といったやや前時代的な材料の選択をしているものの、デザインとしては幾何学を取り入れたモダンなデザインを取り入れているため、従来にはなかった独特な雰囲気を表現している。これらの日常的であった材料によって構成される空間は、非日常的な強固で厳正な空間をつくりだしている。このコンクリートブロックや煉瓦はパネルとして装飾的に用いているものだけでなく、構造材として用いているものもあるという。近代においてこれらの特徴的な材料によって空間構成を試みた建築家として非常に特殊である。


 基本的には正円や四角形といった単純な幾何学形態による構成をとっており、それらの組み合わせなどによって形成していくというシンプルな手法によるものだととれる。しかし、平面的に幾何学を用いているだけでなく立体的にもその幾何学は現れている。ここで現れる幾何学は平面に用いられたそれとは異なり、鍵穴のような凸型をした開口であったり、大きさの異なる円形の連続であったりと多様で、無表情な立面にアクセントを与えている。これらの特徴は、師らの特徴的な幾何学形態とは一味違うものとなり、この建築家の独自的とも言えるアイデンティティであることが伺える。



このような設計方法をよく山中は減算的設計手法という呼び名でよく話題に上げるが、その対極である加算的設計手法をとっているフランク・O.ゲーリーについての作品研究を行った私の視点で見てみる。ゲーリーは建物に内包されるプログラムひとつひとつに対して、それぞれに見合った形態や配置、材料の選択が行われるべきであると考えており、その概念から導き出したボリュームを付加的に配置していくという設計方法を用いており、今回のボッタのようなある法則に基づいた幾何学形態に対して切削していくような設計方法とはまさに真逆であると言えるだろう。加算的設計手法によって形成された空間は不規則的に構成され、その形態に独特な個性を持つという側面があるが、減算的設計手法によって形成された空間はある種の均一性のようなものを持ち、人々に容易に空間をイメージしてもらえるということから、空間の収まりがよく使いやすい、また一種の安心感のようなものを生み出すのではないだろうか。加算と減算というキーワードから建築を見ていく際、どちらが優れているという言い方はできないが、減算の持つシンプルで明瞭な構成の魅力をボッタは存分に引き出していると感じた。


○西洋と日本における自然環境に対する価値観の違い

 これまで見てきた建築の形態の特徴のひとつとして強く囲い込むような閉鎖性が挙げられる。杉山はそれを日本と西洋における自然環境に対する価値観の違いからきているものではないかと考えている。

『そもそも自然環境というものについて、西洋では「人間は自然環境と異なる特別なもの」と捉え、周囲の危険から自己を遠ざけるという本能から、建築すなわち住宅は外敵から身を守るための要塞という考え方をしている。つまり自然をコントロールするという方向に思考が向かうのである。その一方で、日本では「人間は自然の一部」と捉えているので、自由にそのままに身を任すといった考え方をしている。そのため建築も中庭に向かって縁側を持つ日本家屋のような開かれたものが生まれる。これらの差は庭園において特に顕著に表れる。つまり図式的・幾何学的な模様を生み出すような配置形態をとる王宮庭園に対して、日本家屋は樹木や池といった自然物を避けるようにして建ち、それらと共存するような配置形態をとっている。』

 こういった人類文学的思想の違いから建築を見ていくという視点もまた独自性が強く、新鮮なものであった。


○マリオ・ボッタの価値観

『今日、ひとつの住宅を作ることは、ひとつの避難所をつくること(閉鎖)だと思っています』、『人間は住むことの意味、防御することの意味、身を隠すことの意味、そして外界と自分を対比させることの意味を再構築する必要があると思います』(マリオ・ボッタ)。 

マリオ・ボッタは自然に対して西洋的思想のもとに堅牢な防御を誇る要塞としての建築を目指してきた。東日本大震災から4年が経ち、私たちの住む日本は地震大国と言われるように災害と背中合わせに暮らさなければならない。そんな中で美しさや利便性、経済性を追求した理想的な建築を考える他にも、まず生きるため本能的に身を守るという防御を意識することを私たちはわかっているだろうか。ボッタの要塞としての建築、それは私たちが生きる現代においてもう一度考えるべき重要事項なのかもしれない。


― 卒業研究 ―

テーマ設定に悩んでいた時期が長く、最近になって方向性が定まってきたように感じる。研究方法や資料準備など、研究の進め方についてわからないことも多々ある中、6月から今年度初のプロジェクトも始動しようとしている。今年度は特に締め切りが早く多忙となることが予想されるが、それに対して研究室会議以外にも集まって自主ゼミを行い、また先輩に会議前に一度レジュメチェックをしてもらうといった積極的な活動が求められるのではないだろうか。どうやったら自分の研究が良くなるかを熟考し、周りにある環境をうまく活用していってもらいたい。


― 修士研究 ―

各自テーマが決まっており、それについて現地調査や詳しい分析などを勧めている段階である。修士の課題ということで求められるものは大きいが、自分なりの考えや趣向をうまく取り込み、実りのある素晴らしい修士課題にしていってもらいたい。




                     田中 僚


【参照資料出典元】

1. 



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